大津皇子考

 世間的にいうと、たいへん際立つ才能を持った悲劇の皇子、ということになっています。別に、文句はありません。ただ、草壁よりも優れていたかどうかについては、多少の異論がないわけではないのです。日本人の判官びいきというやつもありますし。
 「アライ的歴史パロの世界・古代日本編」では、実は、大津には中大兄(=天智天皇)の血は流れていません。この辺は、母親である大田皇女の出生の顛末を「乙巳」でご確認ください。もっとも、父親は稀代の策士(笑)、中臣鎌足ですから、できの悪かろうはずもありませんし、その上、明らかにぼんぼん育ち(母親の死後、祖父である天智天皇の宮廷で育ちます)ですから、人好きもします。父親である大海人(=天武天皇)似で、容姿も美丈夫というにふさわしいですしね。
 ただ、ぼんぼん育ちの弊害というものをはっきり持っていると思うのです。この辺アライ的「蘇我入鹿」に通じるものがあります。これから先、書くこともあるかと思うのですが、アライは、蘇我入鹿を、女にもてるなかなかにかっこいいおじさんだったと思っています。育ちのいい人間は、一般的には絶対に好かれると思うのですよ。特に、庶民には。それこそ、宮廷にファンクラブができて、姿を見かけるたびに女官が黄色い声を上げるような、そういう男・蘇我入鹿(爆笑)。それに、結局、大化の改新がなかったとしても、日本は確実に律令国家として歩んだと思うのです。だからこそ、「大化の改新・私怨説」なぞとぶち上げたわけですが。
 でも、そういうタイプ(表通りしか知らないような人間とでも言いますか)は、中大兄や鎌足みたいに、常に自分の暗黒の部分を意識し続ける男には鼻持ちならないのですよ。同じように、草壁もある一方で、大津に対して暗い感情を持っていますが、こちらは次作「草壁」をお待ちください。

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